研究紹介記事 No.18
平成15年1月24日掲載

「有機分子を導入した多孔質シリカゲルの合成と特性」
(総合理工学部 樋野研究室 横地雅弘(修士2年))

 樋野良治教授研究室では、新しい機能を持つ無機素材の研究開発に取り組んでいる。私は、そのうち乾燥剤などとして知られるシリカゲルの高機能化の研究を手掛けている。
 シリカゲルは、珪酸のゲルで、半透明の白色固体である。菓子など食品の乾燥剤をはじめ、衣料や美術品などの保存剤、押入れや畳などの除湿剤などに用いられ、私たちの日常生活になじみ深い物質だ。このような用途にシリカゲルが利用できるのは、シリカゲルにある無数の穴(細孔)に水が吸着するからである。これは、親水性の細孔の中を水で満たそうとする力が働くからだ。身近なものとして、多くの穴を持つスポンジが水を吸うことや、繊維と繊維の間にすき間がある雑巾に水が染み込むことなどで想像できると思う。
 さらに、シリカゲルは水の他にいろいろな物質を吸着することができる。この性質を応用し、シリカゲルの細孔の構造や性質をコントロールすることにより、細孔の中へ特定の物質だけを吸着させることが可能になり、吸着剤や分離剤としても利用できる。
 私の研究は、このようなシリカゲルの吸着分離能力を高めることを目的としている。具体的には、シリカゲルの細孔の構造や性質を変化させ、新しい機能を持つシリカゲルを合成することだ。この合成には、ある特定の有機分子を含むシリカゲルの原料を用いる。有機分子はシリカゲルの骨格自体の形成に関与しないので、シリカゲルの表面、つまり細孔内に存在し吸着分離能力に大きく影響する。これまでの研究から、導入する有機分子の種類や量に応じて、細孔構造がナノ(十億分の一メートル)レベルで変化することや、疎水性である有機分子を導入することでシリカゲルを疎水性にできること、さらには、導入した有機分子を焼いて取り除くと、新しい細孔が生成するために細孔の熱安定性が向上すること、などが分かった。
 これらの結果は、吸着させたい特定の物質に適する細孔の構造や性質を持ったシリカゲルを合成できることを示している。したがって、有機分子を導入したシリカゲルは、いろいろな物質のろ過剤や分離剤などの開発に大きく寄与できると思われる。シリカゲルの吸着分離の機能を、環境問題の対策に応用することができれば、ダイオキシンなどの環境ホルモンや、二酸化炭素のような地球温暖化の原因物質などを、選択的に吸着・固定化することができるシリカゲルの開発につながることが期待される。現在、これらのシリカゲルの化学的特性について、さらなる研究をすすめている。

ガス吸着装置でシリカゲルの細孔構造を調べている学生たち

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