研究紹介記事 No.9
平成14年10月25日掲載

「花や野菜の自家中毒」
(生物資源科学部 浅尾研究室 北澤裕明)

 地球環境の保全や食料問題が世界的な課題となっている。日本の農業においても将来、肥料および水の効率的利用や環境への廃棄物の排出を極力抑える、いわゆる「閉鎖系」の栽培方法が必要になると考えられる。実際、園芸の先進国であるオランダを中心としたヨーロッパ諸国では、閉鎖系への移行が進められており、農業廃棄物に関して厳しい環境基準が設けられているのが実情だ。
 その方法の一つとして水耕栽培がある。水耕栽培は使用後の培養液を回収できることから閉鎖系にすることが可能な栽培方法である。しかし、閉鎖系栽培にも問題点がある。植物は根からさまざまな化学物質を出しており、時としてこの根から出る化学物質により植物自身の成長が阻害される場合がある。これを「自家中毒」という。閉鎖系の栽培においては、それらの化学物質が蓄積しやすく、その結果、自家中毒も起こりやすくなる。
 浅尾俊樹助教授の研究室で私は現在、水耕キュウリの自家中毒に関わる研究に取り組んでいる。わが国ではトマトやイチゴ、ミツバなどで水耕栽培が広く行われているが、キュウリの水耕栽培はほとんど行われていない。なぜなら、自家中毒のために生育後半の収量が低下するからだ。そこで、自家中毒に強い品種をみつけるための実験を行っている。培養液を交換せず、自家中毒を起こす物質が蓄積し易い状態をつくり、そこに活性炭を添加する区と添加しない区を設ける。自家中毒の原因となる物質は活性炭に吸着されるので、活性炭を添加した区では、生育抑制は回避される。活性炭を添加した区と添加しなかった区の成長の差を比較することにより、その品種が自家中毒を起こしやすいか判定できる。この実験は、自家中毒に強い、すなわち閉鎖系の栽培に適したキュウリを作り出すための新品種の開発への足がかりになると考えている。三作にわたり、この方法で15の品種を供試する。これまで10品種を供試した。そして現在、三作目で5品種を供試している。自家中毒に強い品種の発見には、さらなる実験が必要である。
 実験をしていて難しいと思うのは細部まで良く観察することである。毎日、一株ずつ葉の色から根の状態まできちんと観察していないと実験するために最低揃えなければならない条件が揃わなくなる。これまでにキュウリのつるが自身の茎にからみついて、茎が折れてしまうことがあった。こういったことが起こらないためにも観察は欠かせない。
 私たちの研究室では連作障害について研究している。連作障害とは同じ植物を同じ場所で栽培し続けると生育不良や収量の低下が起こる現象のことである。このことについてはさまざまな原因が考えられ、自家中毒はその一因であると考えられている。そこで私たちは各種の野菜、花の連作障害について、自家中毒という面から、その回避方法や原因物質を特定するための研究を前述と類似の方法などを用いて行っている。今後、連作障害が報告されている野菜や花を中心に研究を進め,自家中毒の原因物質の特定や回避方法を明らかにし,閉鎖系の栽培の普及に貢献していきたい。


自家中毒を調べるためキュウリの葉や茎を詳しく観察する筆者

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