研究紹介記事 No.5
平成14年9月27日掲載

「身近な鉄と窒素から生まれる新しい材料とその結晶構造」
(総合理工学部 大庭研究室 加納尚子)

 鉄や窒素は、どちらも私たちにとってとても身近なものだ。この身近な鉄と窒素の研究と一口にいっても多くの研究がある。たとえば,鉄と窒素の化合物を利用して金属の表面を硬くする技術の研究,鉄中における窒素の役割を解明する研究,鉄と窒素の化合物の構造を解析する研究など,様々な研究が行われている。
 このように様々な研究が行われている中で、大庭助教授を中心にした大学院生5名、4年生3名からなる、物質の構造と性質の研究を行っているわれわれの研究室では、筑波大学の古谷野研究室と共同で、強力な磁性材料になることが期待されている鉄と窒素の化合物の製造方法、作製した結晶の構造とその分布について研究している。
 多くの物質は原子が周期的に並んだ結晶になっており、物質によって原子配列が異なっている。鉄は磁石にくっつくが、鉄と窒素の原子がある特別な配列になると、鉄よりも強くつくようになるといわれ、多くの研究がなされてきた。しかし、本当に強くなるのか、それはなぜか、未だに分かっていない。それは、この物質がとても不安定で、作ることが容易ではないからだ。そのため、試料を作製する温度や時間の組み合わせを変えたり、つくば学園都市の物質・材料研究機構にある強力な磁石で磁場をかけてみたりと、試行錯誤しながら研究を進めている。
 しかし、目で見ただけでは目的としている物質がどのくらいできているのか分からない。そこで、X線を使ってミクロな原子の配列を調べている。原子の配列を調べる研究のため、兵庫県にある世界一のエネルギーをもった大型放射光施設、SPring-8で、放射光から出てくる大変に強いX線を利用している。放射光とは、電子を光の速さで回すことにより出てくるもので、この利用により、今までみることができなかった微量で、しかも、複数の物質が混ざり合った悪条件でも、物質の原子配列やそれがどれくらいあるかという分布を知ることができる。
 現在は、化合物を作る時の温度や時間、磁場の強さを変え、目的の物質を多く作るのに一番効果的な方法を調べているが、ほとんどが目的の物質になったと言う結果も一部には見いだされてきている。
 このような高性能な磁性材料の開発は、磁気ヘッドやハードディスクドライブの磁気回路などへの幅広い応用が期待されている。今後、新しい材料として活用されるために、より詳しい研究が必要であり、今日も実験、解析を続けている。


大型放射光施設「SPring−8」にある装置でエックス線測定を行い,
パソコンでデータを読み取る学生たち

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